「やりたくない」
2018年7月1日は暑い日で病室の窓が開けてあり、生暖かい風が入ってきていました。
母はベッドに仰向けに寝てラジオを聴いていました。
この日も元気で、冷たい水を渡すと美味しそうに飲んでから一息ついて、話し出しました。
「それでさ、やっぱりさ、眼鏡がテレビの前にあるけど……」突然、何の話かと思いました。
「何をやらされるか分からないから」「全然見えないと、話にならないから」
どうも、7月4日に移動する施設での生活のことを心配して、眼鏡が必要だと思ったようです。
その他にも「4日は朝から行くの?」「普段は何をしているの?」など、新生活のことで頭がいっぱいのようでした。
この日は日曜日でリハビリもなく、時間があるのでいろいろと考えてしまうのでしょう。
一番気になったのが、「いつの間にか車椅子を自分で動かしている人がいる」ということでした。
少し前から食堂で一緒に食べる人の中に、車椅子を一人で動かしてくる人がいるようでした。
母はその人のことを、自分が今度行く施設から来ている人だと思い込んでいるような節がありました。
「邪魔でしょう?」「車椅子を動かすのは、やりたくない」
このころの母は何事にも前向きで、楽しそうにしていることが多かったのですが、何故かこのことだけは頑なでした。
「やりたくない」
今でもその理由はよくわかりません。
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