冤罪

2007年11月30日 (金)

「私はやっていない」

この国では、逮捕・起訴され裁判になった場合、ほとんど全てが有罪になります。
それが、警察・検察が優秀であるためか、裁判がいい加減であるからか分かりませんが、無罪判決はほとんど聞かれません。

特に、死刑が求刑されるような事件の裁判で無罪判決が出ることなど、私は考えたこともなかったのですが、そんなことが広島地裁で実際に起きました。
守屋前防衛事務次官が夫婦で逮捕された11月28日のことです。


広島の母娘保険金殺人、死刑求刑の被告に無罪判決

広島市西区で2001年1月、保険金目的で母親を殺害して放火し、2人の娘を焼死させたとして、殺人、現住建造物等放火などの罪に問われた元会社員中村国治被告(37)の判決が28日、広島地裁であり、細田啓介裁判長は「犯行状況や動機についての自白は不自然で不合理。被告を犯人と断定するには疑いが残る」として無罪(求刑・死刑)を言い渡した。Click here to find out more!

最高裁によると、死刑が求刑され、1審(再審除く)で無罪判決が出されたのは、1978年以降で3件目という。地検は控訴する方針。

中村被告は06年5月に児童扶養手当詐欺事件で逮捕された後、放火殺人を自供したが、公判では否認し、無罪を主張した。

明確な物的証拠がなく、取り調べ段階の自白調書の任意性や信用性などが最大の争点となった。細田裁判長は「被告が犯行を行ったとする客観的証拠はなく、自白調書は検察官の主観に頼った内容になっている」などと捜査のあり方を批判した。

起訴状によると、中村被告は01年1月17日午前3時過ぎ、母親の中村小夜子さん(当時53歳)方1階で、就寝中の小夜子さんを絞殺。灯油をまいて放火し、2階で寝ていた長女彩華ちゃん(同8歳)と二女ありすちゃん(同6歳)を焼死させ、3人の生命保険金など約7300万円を詐取したとされた。

[2007年11月28日13時39分  読売新聞]


この裁判の被告は別件で逮捕され、取り調べ段階で自白したものの公判では否認していたということです。
その上、物的証拠がなく、自白調書の信用性が最大の争点であった、と。
これは、冤罪事件によくあるパターンではあります。

ただ、検察側は控訴するようです。

そして、この裁判長も被告を「シロ」だと認定したのではなく、「グレー」ではあるが「クロ」とまでは言えないとして、無罪にしたということです。

ですから、裁判官が変われば有罪もあり得るかもしれません。
無罪か死刑かですから、大変な違いです。

一方、こちらの事件の容疑者は、逮捕の段階で容疑を否認しています。


JR南武線車内で強制わいせつ 小学教諭逮捕、容疑否認

神奈川県警高津署は28日、川崎市多摩区中野島1丁目、同市立小学校教諭、杉田貴大容疑者(34)を強制わいせつの疑いで現行犯逮捕したと発表した。杉田容疑者は「私はやっていない」と容疑を否認しているという。

調べによると杉田容疑者は、同日午後7時50分すぎ、JR南武線武蔵溝ノ口駅から久地駅間を走行中の車内で、前に立っていた川崎市内に住む高校2年生の女子生徒(17)の背後から、下着の中に手を入れて下半身を触った疑い。生徒が手をつかんで久地駅で下車し、同署員に引き渡したという。

[2007年11月29日01時30分 asahi.com]


容疑者が否認をしている痴漢事件です。
被害者は下着の中に手を入れられたとのことですが、容疑者もその手を掴まれたのであれば否認はできないでしょう。
にもかかわらず否認しているということは、被害者も下着の中の手を掴んだのではなく、手が外に出た後に「これだ」と思った手を掴んだのではないでしょうか。

そうして痴漢の候補者が何人かいる中から、「はずれ」の手を選んでしまった、という可能性もあり得ると思います。
これは、あくまでも想像ですが。

今までに、痴漢冤罪に関しての記事を2つ書いています。

痴漢報道の危うさ

11カ月の勾留とは

その中で紹介しました野村高将氏の手記は、痴漢事件の容疑者としての実体験に基づくものですので、容疑者になる危険性を感じる方は、逮捕される前にぜひ一読されることをお勧めします。

今回の事件でもそうですが、私が気になるのは容疑者が否認しているにもかかわらず、実名が報道されていることです。
住所、氏名、年齢、職業の4点セットで書かれています。
警察発表そのままの記事なのでしょうが、やはり気になります。

野村氏を例にしてみても、冤罪事件は警察に責任がありますが、それと同じくらいマスコミの責任が大きいと感じます。
そういえば、先日容疑者が逮捕された香川県坂出市で起きた祖母と孫の3人が殺害された事件でも、ある特定の人物を怪しむような報道がされていたようです。

おそらく、犯人がなかなか見つからなければ、あの父親は日々マスコミに追い詰められていったのではないでしょうか。


そうですよね、みのさん。

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2007年10月 4日 (木)

11カ月の勾留とは

9月11日の記事 痴漢報道の危うさ の中で紹介しました野村高将さんが手記を発表されました。
http://www.japancm.com/sekitei/note/2007/note36.html

野村さんは電車内での痴漢の疑いで逮捕され、11日間の勾留後、不起訴で釈放されました。その間の事情が細かく語られていますので、少し長いですがぜひご覧いただきたいと思います。

野村さんの場合はまだ運が良かったといえるでしょう。逮捕後もほとんど変わらずに社会生活が送れているようですから。
それでも、11日間も勾留されていたわけです。
一方、11カ月の勾留後に無罪判決が出た事件もあります。


知人女性の胸を触るなどし、首をねんざさせたとして、強制わいせつ致傷罪に問われたイラン国籍の古物商の男性(44)に、横浜地裁は27日、「女性の供述は変遷しており信用できない」として無罪(求刑懲役4年)の判決を言い渡した。

判決理由で栗田健一裁判長は、男性が女性に抱きつくなどした点は認めたが、女性が男性に駐車場まで送ってもらおうとした点を挙げ「被害の切迫性に乏しい」とした上で、女性のねんざは「送ろうとしない男性に女性が柔道技をかけ(自分から)転倒した」と認定。犯罪の証明がなく、無罪と結論づけた。

また、判決は、神奈川県警が女性の供述の変遷を慎重に検討しなかったとして「証拠の収集に不十分な点があった」と指摘した。

男性は昨年1月28日、横浜市緑区の自宅で女性(33)の胸を触るなどし、首にねんざを負わせたとして起訴された。

県警は昨年8月に男性を逮捕。起訴後も拘置し、男性が保釈されたのは逮捕から約11カ月後の今年7月だった。

[2007年9月28日2時41分 nikkansports.com]


裁判で争われた事件は、昨年の1月28日に起きています。
そしてイラン国籍の男性が逮捕されたのは、約半年後の昨年8月です。
この記事だけでは詳細は分かりませんが、神奈川県警はおそらく女性の証言だけでこの男性を逮捕したのでしょう。

今回の横浜地裁の判決は「女性の供述は変遷しており‥‥」と述べています。
女性の供述だけで逮捕・起訴したとすれば、それが変われば事件そのものが変わってしまうのは当然です。痴漢事件の持つ性格からして、どうしてもこのようなことは避けられないと思います。

9月11日の記事では、容疑者が否認しているにもかかわらず、痴漢で逮捕された時点での実名報道はいかがなものかと疑問を呈したわけですが、今回の事件で疑問なのは、起訴後も合計11カ月に亘って身柄を勾留しているということです。

野村氏の手記によりますと、取り調べで移動する際に手錠をかけられ、人目のある場所でいわゆる「汽車ポッポ」をさせられた、などとあります。
その後に無罪と言われても、その間に罪人扱いされた屈辱感は消えるものではありません。
今回の男性は11カ月もの勾留ですから、その苦悩も大変なものだったと思われます。

そもそも半年も前の事件であり、証拠隠滅の恐れがあるとも思えないのに、11カ月も勾留する理由はいったい何なのでしょうか。
そして、何という法律に基づいているのでしょうか。
まさか法律に基づかずに警察や検察が身柄を拘束するはずはないと思いますが。


日本は法治国家のはずですから。

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2007年9月11日 (火)

痴漢報道の危うさ

最近痴漢の報道を良く目にします。以前より件数が増加しているのかどうかは分かりませんが、女性が泣き寝入りしなくなったのが大きいと思います。反面、痴漢冤罪が問題になりつつあります。被害者の主張だけで現行犯で逮捕されますので、間違いも起きやすいわけです。

エコノミストの植草一秀氏が現在もその痴漢容疑で裁判中です。彼は、りそな銀行に関する疑惑を追及したのではめられた、と言われています。今のところ真偽のほどは明らかではありませんが、その可能性も考えられます。でっち上げやすい犯罪でもありますし。
被害者の狂言、勘違いだけでなく、犯人を取り違えたりして冤罪になるケースなどいろいろあるでしょう。
いずれにしても、逮捕された人は大変なことになります。


電車内で高校2年の女子生徒に痴漢をしたとして埼玉県迷惑防止条例違反の現行犯で逮捕された国士舘大非常勤講師の野村高将さん(34)について、さいたま地検が嫌疑不十分で不起訴処分にしていたことが6日、分かった。

埼玉県警大宮署は野村さんが8月20日夜、JR埼京線の電車内で隣に立っていた女子生徒の体を触り、生徒と乗客が取り押さえたと発表。野村さんは否認していた。

野村さんは取材に対し「電車でうとうとしていたら、生徒に『痴漢したでしょ』と言われた。状況が分からなかった。8月31日に釈放された」と話した。

[2007年9月6日21時50分 nikkansports.com]


この記事からしますと、野村さんは否認していたにもかかわらず、被害者?の女子高生の証言だけで、11日間も勾留されていたわけです。
そして、おそらくこのニュースは警察が自ら発表したのではなく、どこかが調べて6日後に分かったものと思われます。

次の記事は少し品がないですが、これも微妙な事件です。


JR西日本の社員が阪急電鉄の電車の中で女性に下半身を露出して見せたとして公然わいせつの疑いで9日までに、兵庫県警宝塚署に逮捕された。

現行犯で逮捕されたのはJR西日本社員 I 容疑者(50)。調べによると、 I 容疑者は8日午後9時55分ごろ、阪急電鉄宝塚線の梅田発宝塚行き急行電車内の十三~豊中間で、座席に座っていた女性(34)の前に立ち、ズボンのファスナーを下げ、おもむろにイチモツを露出した。ファスナーを下げるときは無言だったという。当時、車内は満員ではないが、空いている座席はなく、立っている人も多い状態だった。先頭車両から2両目に乗車していた女性は乗務員が2人いた運転席へ行き、通報。運転していなかった乗務員が“開チン”現場へ駆けつけると、 I 容疑者がその場にいたため、取り押さえた。

 I 容疑者は雲雀丘花屋敷駅(兵庫県宝塚市)で宝塚署員に引き渡され、公然わいせつの現行犯で逮捕された。

調べに対し、 I 容疑者は「認識がない」と容疑を否認している。酒に酔っていたという。 I 容疑者は同県西宮市生瀬武庫川町に住んでおり、最寄りの駅はJR宝塚線「生瀬」。阪急宝塚線とJR宝塚線は途中から平行して走っているが、大阪を起点にした場合、帰宅するにはJR宝塚線を利用したほうが便利。帰宅する方向は合っているが、なぜ I 容疑者が阪急電鉄を利用したのかは不明。しかも競合するライバル社の車内での“開チン”。同署は詳しいいきさつを調べている。

[2007年9月10日10時0分 日刊スポーツ]


こちらも容疑者は否認しています。被害者が何かと見間違えたかもしれません。こういう場合に決め手となるのは目撃証言ですから、女性が目撃したというものの特徴を述べ、検証するくらいしかないでしょう。笑い話のようですが、特徴がはっきりしているといいのですが‥‥。
「ファスナーを下げるときは無言だったという」これは何のための情報でしょうか、よく分かりません。

そんなことはともかくとして、この記事はほとんど警察発表のままだと思いますが、この記事で問題だと感じたのは容疑者の勤務先が書かれ、住所も町名まで書かれ、実際の記事では実名まで書かれていることです。
先の記事の例にもあるように、痴漢の事件は冤罪も多いですし、容疑者が否認している段階でここまで発表してしまうのはどうなのでしょうか。

皆様もご用心下さい。

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2007年8月29日 (水)

「御殿場事件」は事件なのか

先週、御殿場事件という「事件」の控訴審判決が東京高裁でありました。
テレビなどでも取り上げられましたのでご存じの方も多いと思いますが、ご存じでない方のために、かなり長くなりますが読売新聞の記事を紹介します。


静岡県御殿場市で2001年、少女(当時15歳)を乱暴しようとしたとして、婦女暴行未遂の罪に問われた当時16~17歳だった元少年4人(22~23歳)の控訴審判決が22日、東京高裁であった。
Click here to find out more!

 中川武隆裁判長は、4人を懲役2年(求刑・懲役3年)とした1審・静岡地裁沼津支部判決を破棄し、いずれも懲役1年6月の実刑判決を言い渡した。弁護側は上告した。

 判決などによると、元少年4人は01年9月に仲間の少年6人と、少女を同市内の公園に連れ込み、乱暴しようとしたとして逮捕された。4人は捜査段階で容疑を認めたが、家裁の少年審判で否認に転じ、検察官送致(逆送)後、起訴された。

 ところが、1審公判で、少女が犯行日についてウソをついていたことが判明。検察側が犯行日を同年9月16日から同月9日に改める異例の訴因変更を行った。このため、少女の供述の信用性と、ウソの犯行日を前提に犯行を認めた4人の自白調書の信用性が最大の争点となった。

 高裁判決はまず、少女の供述について、「犯行日について変更したが、被害を受けた経緯や被害状況などについてはほぼ一貫しており、内容も具体的で自然だ」と指摘。ウソをついた点についても、「他の男性との交際を隠すためだったなどの理由は十分理解できる」とし、「被害自体が虚構だったとは言えない」と判断した。

 一方、4人の自白調書について、判決は「間違った犯行日を前提とした部分を除き、根幹部分は十分信用できる」とし、実際の犯行日の元少年らのアリバイ主張についても、「いずれも信用できない」と退けた。

 弁護側は、公判途中で犯行日を変更した手続きは違法とも主張したが、判決は「捜査機関の当初の裏付け捜査が万全を尽くしたとはいえなかった」としながらも、「被害者の供述変更によるやむを得ないものだった」と述べた。刑を軽減した理由については、「被害者の被害申告にも問題があった点を考慮した」と説明した。

          ◇

 この事件では、当時中3~高2の少年10人(15~17歳)が逮捕され、捜査段階では全員が犯行を認めた。しかし、静岡家裁沼津支部で行われた少年審判で5人が否認。このうち4人が検察官送致(逆送)され、起訴された。別の1人は、刑事裁判の無罪に当たる「不処分」となったが、検察側が抗告。東京高裁、最高裁で不処分が取り消された後、起訴され、1審で有罪判決を受けた(控訴中)。

 一方、少年審判で非行事実を認めた5人のうち4人は中等少年院送致、1人は保護観察処分となったが、その後、無実を訴えていた。さらに、少年院送致されたうちの1人は、処分の取り消しを申し立て、静岡家裁沼津支部が今年1月、刑事裁判の再審に当たる「審判開始」を決定している。

[2007年8月22日12時41分  読売新聞]


10人の少年が15歳の少女に乱暴しようとしたとして、訴えられました。少年たちは捜査段階で全員容疑をを認めました。その時点では犯行日は9月16日ということでした。
その後、少年審判で5人が否認(最終的には10人全員が否認)し、そのうち4人が起訴されました。
つまり、少年たちは裁判ではずっと否認しているわけです。

裁判中に少女が犯行日についてウソをついていたことが分かります。そのため検察側が犯行日を9月9日に変更します。 9月16日には少女が他の男性と会っていたことが判明したからです。

少年たちは一旦犯行を認めてはいますが、 その際の犯行日は9月16日でした。一方的に日付を変えてそのまま犯行を認めろ、というのもひどい話です。
その上、この日付の変更には重大な意味があります。
それは9月9日の現地の天気は雨だったというのです。にもかかわらず、雨に関してはどの供述にも一切ないそうです。

このほかにも少女の供述は途中で何点か変更されたということです。
それでも判決は、少女の供述は「根幹部分は十分信用できる」としていますが、懲役2年の一審判決を懲役1年6か月に軽減しました。その理由が「被害者の被害申告にも問題があった」というものです。
つまり少女の供述は信用できるが、問題もあるので減刑します、ということでしょうか。

私もこの事件は今回の判決で初めて知りました。ですからあまり詳しくはないのですが、どうも冤罪の香りがします。
この事件は初めからなかった、と考えると一番スッキリするような気がします。

容疑者が捜査段階では容疑を認めたが、裁判で否認する‥‥。
新たな事実が出て来ても、強引にそのまま裁判を進めてしまう‥‥。
などは、典型的な冤罪のパターンです。

この高裁の判決を見ると、日本の司法は大丈夫かと不安になりますが、私達が知らないだけで、こういう判決はそれほど珍しくないのかもしれません。

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この事件・裁判に関する記事を以下に紹介させていただきます。

長野智子blog
阿曽山大噴火コラム

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