マスメディア

2007年12月 5日 (水)

私もあなたも元少年

いわゆる光市母子殺害事件の差し戻し控訴審の第12回公判が12月4日、広島高裁(楢崎康英裁判長)でありました。弁護側は最終弁論で、殺意や強姦目的を改めて否定し、傷害致死罪が適用されるべきだと主張しました。

さらに、少年法で死刑適用が認められる18歳から1カ月で犯行に及んだ点を強調した上で、精神的に未熟だった元少年が起こした「偶発的な事件」として、死刑回避を求めました。
裁判はこの日で結審し、判決は08年4月22日に言い渡されることになります。


昨日の弁護側の最終弁論に関する報道は、この事件の裁判としてはかなり控えめのものだったと感じます。
そして、後は裁判所の判断を待つばかりとなりました。

最高裁が死刑判決を求めて差し戻したことや、あの橋下弁護士が言うところの「世間」の声を考えると、裁判官が下す判決は限られているのではないかと思います。
判決が下される日の報道は相当に過熱するでしょうから、もし、死刑以外の判決が出された場合、私は裁判官の勇気に敬意を感じつつも、その身の安全を心配してしまいます。
いずれにせよ、後は裁判所の判断です。


それから、この事件の裁判を考えるときに、忘れてはならないのがマスメディアの報道です。
「世間」の声を作ったのもマスメディア、特にテレビによるところが大きかったと思います。

マスメディアでは、今では26歳になった被告人のことを、ほとんどが「元少年」と呼んでいます。
読売新聞では、元会社員となっているようです。
実は私も元少年であり、元会社員なのですが‥‥。
まあ、それはそれとして。


ところで、この裁判の被告人の名前をご存じでしょうか。
この事件を調べるためにネットで検索した時、○○という被告人の実名が書いてありました。
例えば、「○○は死刑にするべきだ」などとあったわけです。
私はそれを読んだとき、一瞬、別の事件のことかと思いました。
すぐには「○○」と言う名前と「元少年」が一致しなかったわけです。
その違和感は今でもどこかに残っています。

「元少年」に関しては名前だけではなく、写真などの映像もマスメディアには出てきません。
今後、いずれかの機会に公開されるのかどうかわかりませんが、もし公開された場合、私が抱いたような違和感を持つ人はかなり多いのではないでしょうか。
また、この「元少年」はずっと「元少年」として扱われ続けるわけですか?

このように報道に際して規制が必要な被告人に対して数多くのマスメディア、特にテレビ番組は、死刑を求めることが当然であるかのような報道をしてきました。
そして、その影響もあってか多くの人は、名前も容貌も知らない「元少年」を死刑にすべきだと考えているようです。


この事件の裁判に関しては他の裁判と比較して、マスメディアの情報量も多かったように思います。
それにもかかわらず、今でも「元少年」についてよく知らないのは、私だけではないでしょう。

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2007年11月30日 (金)

「私はやっていない」

この国では、逮捕・起訴され裁判になった場合、ほとんど全てが有罪になります。
それが、警察・検察が優秀であるためか、裁判がいい加減であるからか分かりませんが、無罪判決はほとんど聞かれません。

特に、死刑が求刑されるような事件の裁判で無罪判決が出ることなど、私は考えたこともなかったのですが、そんなことが広島地裁で実際に起きました。
守屋前防衛事務次官が夫婦で逮捕された11月28日のことです。


広島の母娘保険金殺人、死刑求刑の被告に無罪判決

広島市西区で2001年1月、保険金目的で母親を殺害して放火し、2人の娘を焼死させたとして、殺人、現住建造物等放火などの罪に問われた元会社員中村国治被告(37)の判決が28日、広島地裁であり、細田啓介裁判長は「犯行状況や動機についての自白は不自然で不合理。被告を犯人と断定するには疑いが残る」として無罪(求刑・死刑)を言い渡した。Click here to find out more!

最高裁によると、死刑が求刑され、1審(再審除く)で無罪判決が出されたのは、1978年以降で3件目という。地検は控訴する方針。

中村被告は06年5月に児童扶養手当詐欺事件で逮捕された後、放火殺人を自供したが、公判では否認し、無罪を主張した。

明確な物的証拠がなく、取り調べ段階の自白調書の任意性や信用性などが最大の争点となった。細田裁判長は「被告が犯行を行ったとする客観的証拠はなく、自白調書は検察官の主観に頼った内容になっている」などと捜査のあり方を批判した。

起訴状によると、中村被告は01年1月17日午前3時過ぎ、母親の中村小夜子さん(当時53歳)方1階で、就寝中の小夜子さんを絞殺。灯油をまいて放火し、2階で寝ていた長女彩華ちゃん(同8歳)と二女ありすちゃん(同6歳)を焼死させ、3人の生命保険金など約7300万円を詐取したとされた。

[2007年11月28日13時39分  読売新聞]


この裁判の被告は別件で逮捕され、取り調べ段階で自白したものの公判では否認していたということです。
その上、物的証拠がなく、自白調書の信用性が最大の争点であった、と。
これは、冤罪事件によくあるパターンではあります。

ただ、検察側は控訴するようです。

そして、この裁判長も被告を「シロ」だと認定したのではなく、「グレー」ではあるが「クロ」とまでは言えないとして、無罪にしたということです。

ですから、裁判官が変われば有罪もあり得るかもしれません。
無罪か死刑かですから、大変な違いです。

一方、こちらの事件の容疑者は、逮捕の段階で容疑を否認しています。


JR南武線車内で強制わいせつ 小学教諭逮捕、容疑否認

神奈川県警高津署は28日、川崎市多摩区中野島1丁目、同市立小学校教諭、杉田貴大容疑者(34)を強制わいせつの疑いで現行犯逮捕したと発表した。杉田容疑者は「私はやっていない」と容疑を否認しているという。

調べによると杉田容疑者は、同日午後7時50分すぎ、JR南武線武蔵溝ノ口駅から久地駅間を走行中の車内で、前に立っていた川崎市内に住む高校2年生の女子生徒(17)の背後から、下着の中に手を入れて下半身を触った疑い。生徒が手をつかんで久地駅で下車し、同署員に引き渡したという。

[2007年11月29日01時30分 asahi.com]


容疑者が否認をしている痴漢事件です。
被害者は下着の中に手を入れられたとのことですが、容疑者もその手を掴まれたのであれば否認はできないでしょう。
にもかかわらず否認しているということは、被害者も下着の中の手を掴んだのではなく、手が外に出た後に「これだ」と思った手を掴んだのではないでしょうか。

そうして痴漢の候補者が何人かいる中から、「はずれ」の手を選んでしまった、という可能性もあり得ると思います。
これは、あくまでも想像ですが。

今までに、痴漢冤罪に関しての記事を2つ書いています。

痴漢報道の危うさ

11カ月の勾留とは

その中で紹介しました野村高将氏の手記は、痴漢事件の容疑者としての実体験に基づくものですので、容疑者になる危険性を感じる方は、逮捕される前にぜひ一読されることをお勧めします。

今回の事件でもそうですが、私が気になるのは容疑者が否認しているにもかかわらず、実名が報道されていることです。
住所、氏名、年齢、職業の4点セットで書かれています。
警察発表そのままの記事なのでしょうが、やはり気になります。

野村氏を例にしてみても、冤罪事件は警察に責任がありますが、それと同じくらいマスコミの責任が大きいと感じます。
そういえば、先日容疑者が逮捕された香川県坂出市で起きた祖母と孫の3人が殺害された事件でも、ある特定の人物を怪しむような報道がされていたようです。

おそらく、犯人がなかなか見つからなければ、あの父親は日々マスコミに追い詰められていったのではないでしょうか。


そうですよね、みのさん。

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2007年9月11日 (火)

痴漢報道の危うさ

最近痴漢の報道を良く目にします。以前より件数が増加しているのかどうかは分かりませんが、女性が泣き寝入りしなくなったのが大きいと思います。反面、痴漢冤罪が問題になりつつあります。被害者の主張だけで現行犯で逮捕されますので、間違いも起きやすいわけです。

エコノミストの植草一秀氏が現在もその痴漢容疑で裁判中です。彼は、りそな銀行に関する疑惑を追及したのではめられた、と言われています。今のところ真偽のほどは明らかではありませんが、その可能性も考えられます。でっち上げやすい犯罪でもありますし。
被害者の狂言、勘違いだけでなく、犯人を取り違えたりして冤罪になるケースなどいろいろあるでしょう。
いずれにしても、逮捕された人は大変なことになります。


電車内で高校2年の女子生徒に痴漢をしたとして埼玉県迷惑防止条例違反の現行犯で逮捕された国士舘大非常勤講師の野村高将さん(34)について、さいたま地検が嫌疑不十分で不起訴処分にしていたことが6日、分かった。

埼玉県警大宮署は野村さんが8月20日夜、JR埼京線の電車内で隣に立っていた女子生徒の体を触り、生徒と乗客が取り押さえたと発表。野村さんは否認していた。

野村さんは取材に対し「電車でうとうとしていたら、生徒に『痴漢したでしょ』と言われた。状況が分からなかった。8月31日に釈放された」と話した。

[2007年9月6日21時50分 nikkansports.com]


この記事からしますと、野村さんは否認していたにもかかわらず、被害者?の女子高生の証言だけで、11日間も勾留されていたわけです。
そして、おそらくこのニュースは警察が自ら発表したのではなく、どこかが調べて6日後に分かったものと思われます。

次の記事は少し品がないですが、これも微妙な事件です。


JR西日本の社員が阪急電鉄の電車の中で女性に下半身を露出して見せたとして公然わいせつの疑いで9日までに、兵庫県警宝塚署に逮捕された。

現行犯で逮捕されたのはJR西日本社員 I 容疑者(50)。調べによると、 I 容疑者は8日午後9時55分ごろ、阪急電鉄宝塚線の梅田発宝塚行き急行電車内の十三~豊中間で、座席に座っていた女性(34)の前に立ち、ズボンのファスナーを下げ、おもむろにイチモツを露出した。ファスナーを下げるときは無言だったという。当時、車内は満員ではないが、空いている座席はなく、立っている人も多い状態だった。先頭車両から2両目に乗車していた女性は乗務員が2人いた運転席へ行き、通報。運転していなかった乗務員が“開チン”現場へ駆けつけると、 I 容疑者がその場にいたため、取り押さえた。

 I 容疑者は雲雀丘花屋敷駅(兵庫県宝塚市)で宝塚署員に引き渡され、公然わいせつの現行犯で逮捕された。

調べに対し、 I 容疑者は「認識がない」と容疑を否認している。酒に酔っていたという。 I 容疑者は同県西宮市生瀬武庫川町に住んでおり、最寄りの駅はJR宝塚線「生瀬」。阪急宝塚線とJR宝塚線は途中から平行して走っているが、大阪を起点にした場合、帰宅するにはJR宝塚線を利用したほうが便利。帰宅する方向は合っているが、なぜ I 容疑者が阪急電鉄を利用したのかは不明。しかも競合するライバル社の車内での“開チン”。同署は詳しいいきさつを調べている。

[2007年9月10日10時0分 日刊スポーツ]


こちらも容疑者は否認しています。被害者が何かと見間違えたかもしれません。こういう場合に決め手となるのは目撃証言ですから、女性が目撃したというものの特徴を述べ、検証するくらいしかないでしょう。笑い話のようですが、特徴がはっきりしているといいのですが‥‥。
「ファスナーを下げるときは無言だったという」これは何のための情報でしょうか、よく分かりません。

そんなことはともかくとして、この記事はほとんど警察発表のままだと思いますが、この記事で問題だと感じたのは容疑者の勤務先が書かれ、住所も町名まで書かれ、実際の記事では実名まで書かれていることです。
先の記事の例にもあるように、痴漢の事件は冤罪も多いですし、容疑者が否認している段階でここまで発表してしまうのはどうなのでしょうか。

皆様もご用心下さい。

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2007年6月17日 (日)

自分の立場は自分で

私の子供の頃のヒーローは、長嶋茂雄でした。当然、熱狂的な巨人ファンでした。それは、長嶋が監督になり、その後解任されるまで続きました。今ではその熱もかなり冷めましたが、それでも巨人戦を見るときには、やはり巨人に肩入れしてしまいます。スポーツを冷静にみるのは、なかなか難しいものです。

昨年の8月に福岡で起きた交通事故の初公判が 6月12日に開かれました。
この事故は、追突された車の子供3人が死亡し、原因は酒を飲んで運転していた加害者の側に100%あると思われるものです。
テレビでこのニュースを取り上げた後、司会のみのもんた氏は、
「われわれも被害者の立場に立って考えないといけません。」と、発言しました。
彼にとっては何気ない、場をつなぐためだけの言葉だったかもしれません。もしくは、彼の本音かもしれません。

みのファンのお嬢様方は、この言葉に「うんうん」とうなずくことでしょう。でも私にはちょっとひっかかりました。

この事故の加害者は、一方的に責められても当然な無謀運転をしました。また、被害者はひたすらお気の毒で、かわいそうなご家族です。ただ、ニュースの送り手と受け手は、ほとんどがこの事故とは直接関係がない第三者なのです。みの氏のいう「われわれ」とは、この第三者のことだと思われます。

私は、第三者がどういう立場に立とうと自由だと思っています。確かに感情的には誰もが被害者に同情するでしょう。ただし、それは自然な感情からであって、ニュースの司会者などの送り手側がどうこう言うことではないのです。

みのもんた氏の司会は、何事にも決めつけることが多いですね。司会者が立場を鮮明にすると、分かりやすさとか、親しみやすさなどが出るのでしょう。でもその立場に同意するかどうかは、受け手の自由であるはずです。

スポーツを見る時は立場を明らかにして、熱い眼で見た方が盛り上がります。
対してニュースは、送り手の意図に左右されずに、自分で考え判断するために冷静な眼で見ていきたいものです。

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2007年6月16日 (土)

政治家が暗殺される国

昨年の暮、安倍首相は 「安倍内閣にとっての一年を一文字で表すと?」 と質問され、「責任です」 と、字余りで答えていました。そこで私も安倍内閣を一文字で表現しようと思い、あれこれ考えてみました。
その結果 「冷血」 という、こちらも字余りの言葉が浮かんでしまいました。

年金不信や住民税増税など、経済的にますます住みにくい国になっています。また、監視社会化がすすみ、共謀罪が取りざたされるなど、政治的にも危ない方向へ進んでいる気がします。

こういう状況の中、私が忘れることができない事件があります。
それは、2002年10月に起きた 「石井紘基衆議院議員暗殺事件」 です。
ここでは、事件の詳細は割愛しますが、私が不思議だったのはマスコミの扱いが非常に軽かったことです。普通の殺人事件と同じか、それ以下の報道だった印象があります。
当時の小泉首相の反応もそれほどの重大事とは感じさせないものでした。

現職の政治家が狙われて殺された。ひとごとではないはずです。自分も狙われるかもしれないわけですから。
今年の4月に起きた長崎市長射殺事件の時、安倍首相も同じようなひとごとの対応をしました。
自分たちが狙われるわけがないと、あたかも知っているかのような冷たい反応です。

非情と言われた小泉内閣のこの頃から、マスコミの妙なスルーや、政治家の人間味のない言動などが、顕著になったように思います。内閣を批判する前に、自分の身の安全を考える。そんな時代になりました。

小泉から安倍へ。
非情から冷血へ。
この国は、何処へ向かうのでしょうか?

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