光市母子殺害事件

2008年4月23日 (水)

匿名が実名に変わる時

昨日広島高裁で出された、いわゆる光市母子殺害事件の差し戻し審判決は死刑でした。
この差し戻し審が行われた経緯からして、死刑判決が出ることは容易に想像できたわけですが、そういうことも含めて、この事件の裁判についての私の考えなどは既にこのブログでも何回か取り上げており、
光市母子殺害事件というカテゴリーにまとめてありますので、お時間のある方はぜひお読みになって下さい。


ということで、この裁判の死刑判決は、いかにも既定路線そのままという感じで、死刑判決が出された後でも何かを書きたい欲求などあまり湧いて来ないのですが、この裁判に対する現在の私の考えに非常に近い文章を見つけましたので、以下に紹介しておきたいと思います。
それは本日、4月23日の東京新聞の社説
「母子殺害判決 重い課題が残された」です。

********************

被告に対する量刑ばかりに関心が集まり、基本的問題が十分論議されなかったのは残念だ、と社説は述べています。
その基本的問題として、「被害者感情と刑罰の重さの関係」「死刑存廃」「刑事弁護の意義」の三点を挙げています。


まず第一に、「被害者感情と刑罰の重さの関係」として、遺族の憤りは理解できるとしながらも、被害感情を量刑に直接反映させると裁判が復讐の場になりかねないと危惧しています。

第二に、国際的な死刑廃止の流れを無視するかのように、死刑について真剣な議論がないまま近年、死刑判決が増加しているこの国の現状を問題視しています。

第三には、「刑事弁護の意義」として、どんな凶悪事件の被告にも適正に裁かれる権利があり、それを守る弁護活動が被害者感情、市民感覚と合致しなくても、封じることは許されない、と述べています。

********************

至極当然の三点ですが、三つともこれまでこの国では真剣に議論されたことはほとんどなかったと思います。 
奇しくも今回の裁判で明るみに出されたこれらの点が、今後充分に議論されたら良いとは思いますが、これまでの傾向からして、あまり期待はできないのでしょうね。


最後に、この裁判を取り上げるときに忘れてはならないのがマスメディアの報道です。
今さらあれこれ言うつもりもありませんが、気になる点を一点だけ。

報道によりますと、昨日死刑判決を出されたのは元少年です。
つまり、マスコミでは未だに匿名の報道が続いているわけです。
昨日聴いたラジオの番組では、評論家の宮崎哲弥氏が「最高裁で死刑が確定すると実名で報道するようになる」と発言していました。

そうだとすると、今はまだ被告の人権に配慮する必要があるが、死刑が確定すればその必要がなくなるということでしょうか。
おそらく、何か決まった基準があるものと思いますが。

いずれにしても、高裁とはいえ死刑判決が出されてもなお、被告を匿名で報道し続けるマスコミには少し違和感を覚えます。
若しくは、マスコミが匿名報道せざるを得ない被告に死刑判決を出す裁判所が少しおかしいのでしょうか。


この際、マスコミ報道についても真剣に議論される必要があるように思います。

人気ブログランキングへにほんブログ村 政治ブログへ
最後までお読みいただきありがとうございます。
よろしければ、1つか2つ、クリックお願いします。

| | コメント (2) | トラックバック (9)

2007年12月 5日 (水)

私もあなたも元少年

いわゆる光市母子殺害事件の差し戻し控訴審の第12回公判が12月4日、広島高裁(楢崎康英裁判長)でありました。弁護側は最終弁論で、殺意や強姦目的を改めて否定し、傷害致死罪が適用されるべきだと主張しました。

さらに、少年法で死刑適用が認められる18歳から1カ月で犯行に及んだ点を強調した上で、精神的に未熟だった元少年が起こした「偶発的な事件」として、死刑回避を求めました。
裁判はこの日で結審し、判決は08年4月22日に言い渡されることになります。


昨日の弁護側の最終弁論に関する報道は、この事件の裁判としてはかなり控えめのものだったと感じます。
そして、後は裁判所の判断を待つばかりとなりました。

最高裁が死刑判決を求めて差し戻したことや、あの橋下弁護士が言うところの「世間」の声を考えると、裁判官が下す判決は限られているのではないかと思います。
判決が下される日の報道は相当に過熱するでしょうから、もし、死刑以外の判決が出された場合、私は裁判官の勇気に敬意を感じつつも、その身の安全を心配してしまいます。
いずれにせよ、後は裁判所の判断です。


それから、この事件の裁判を考えるときに、忘れてはならないのがマスメディアの報道です。
「世間」の声を作ったのもマスメディア、特にテレビによるところが大きかったと思います。

マスメディアでは、今では26歳になった被告人のことを、ほとんどが「元少年」と呼んでいます。
読売新聞では、元会社員となっているようです。
実は私も元少年であり、元会社員なのですが‥‥。
まあ、それはそれとして。


ところで、この裁判の被告人の名前をご存じでしょうか。
この事件を調べるためにネットで検索した時、○○という被告人の実名が書いてありました。
例えば、「○○は死刑にするべきだ」などとあったわけです。
私はそれを読んだとき、一瞬、別の事件のことかと思いました。
すぐには「○○」と言う名前と「元少年」が一致しなかったわけです。
その違和感は今でもどこかに残っています。

「元少年」に関しては名前だけではなく、写真などの映像もマスメディアには出てきません。
今後、いずれかの機会に公開されるのかどうかわかりませんが、もし公開された場合、私が抱いたような違和感を持つ人はかなり多いのではないでしょうか。
また、この「元少年」はずっと「元少年」として扱われ続けるわけですか?

このように報道に際して規制が必要な被告人に対して数多くのマスメディア、特にテレビ番組は、死刑を求めることが当然であるかのような報道をしてきました。
そして、その影響もあってか多くの人は、名前も容貌も知らない「元少年」を死刑にすべきだと考えているようです。


この事件の裁判に関しては他の裁判と比較して、マスメディアの情報量も多かったように思います。
それにもかかわらず、今でも「元少年」についてよく知らないのは、私だけではないでしょう。

人気ブログランキングへにほんブログ村 政治ブログ 政治・社会問題へ
最後までお読みいただきありがとうございます。
よろしければ、1つか2つ、クリックお願いします。

| | コメント (1) | トラックバック (5)

2007年9月23日 (日)

母子殺害で無期懲役

光市母子殺害事件の集中審理が終わった翌日、仙台地裁で、ある母子殺害事件の判決が言い渡されました。
夕刊に非常に小さく扱われたこの事件について、読売新聞から転載します。


宮城県名取市内のアパートで今年1月、無職工藤真紀さん(当時36歳)と長女の敬花ちゃん(当時3か月)が殺害された事件で、交際相手の女性とその間に生まれた子供に対する殺人の罪に問われた同県亘理町逢隈田沢、無職安田敬被告(36)の判決が21日、仙台地裁であった。卯木誠裁判長は「幼いわが子の命まで奪い、人命軽視も甚だしい」として、求刑通り無期懲役を言い渡した。

卯木裁判長は判決で、敬花ちゃんの殺害について、「ほかに現場に誰かが立ち入った形跡はなく、真紀さんが敬花ちゃんと無理心中したと偽装するため、布団を覆いかぶせた」と指摘し、殺害を否認していた安田被告の主張を退けた。

判決によると、安田被告は今年1月1日午後、真紀さんの自宅アパートで、真紀さんの首を革ベルトなどで絞め、さらに敬花ちゃんが寝ている間に、顔に大人用の掛け布団をかぶせ、2人を窒息死させた。

[2007年9月21日14時14分 読売新聞]


この事件は、不倫相手の女性とその間にできた自分の子供を、借金の返済を迫られた男が無理心中を装って殺害したとされる母子殺害事件です。
求刑は無期懲役でした。
そして判決も無期懲役です。
被告側が控訴しなければ無期懲役で確定するのでしょう。

このようにほとんど誰にも注目されない裁判もあれば、全国が注目している裁判もあるわけですが、その裁判の弁護士たちはさまざまな経験をしているようです。


山口県光市の母子殺害事件で、被告の元少年(26)の弁護団に加わっている村上満宏弁護士(愛知県弁護士会)の事務所のネームプレートが、何者かに傷付けられていたことが22日、分かった。村上弁護士の所属事務所は同日までに、器物損壊容疑で愛知県警に被害届を出した。

村上弁護士によると、所属する名古屋法律事務所(名古屋市中村区)の出入り口に掲示したネームプレートが、くぎのようなもので傷付けられているのが8月下旬に見つかった。ほかの弁護士のネームプレートに被害はなかった。

母子殺害事件では、元少年の死刑回避を訴える弁護士への懲戒処分請求が相次ぎ、弁護団のうち4人がテレビ番組で懲戒請求を呼び掛けたとされる橋下徹弁護士(大阪弁護士会)に損害賠償を求め提訴。橋下弁護士は「発言に違法性はない」と反論している。

村上弁護士は「(母子殺害)事件と関係しているかどうかは分からないが、断じて許されない行為だ」としている。

[2007年9月22日21時30分 nikkansports.com]


ネームプレートの傷と裁判での弁護活動との関連性は今はまだ分かりません。
もしかすると、マスコミの論調に煽られた何者かがやってしまったのかもしれません。
ただ、弁護士を非難する言動や懲戒請求などについても同じことですが、煽られたとしてもマスコミは一切責任は取りませんからそのつもりで。
当然、全てが自己責任にされます。

そのうち、マスコミは煽られた人たちを叩く側に回るかもしれません。

その点も気をつけておいた方がいいでしょう。

人気blogランキングへにほんブログ村 政治ブログ 政治・社会問題へ
最後までお読みいただきありがとうございます。
よろしければ、1つか2つ、クリックお願いします。

| | コメント (4) | トラックバック (5)

2007年9月20日 (木)

光市母子殺害事件の集中審理

光市母子殺害事件の集中審理が行われています。
一昨日、昨日とマスコミの扱いはそれほど大きくなかったようですが、今日の夕方以降のニュースでは、かなり大きく取り上げられそうです。


マスコミ報道だけでは物足りないという方は、ぜひこちらのブログをご覧下さい。

弁護士・人間・今枝仁…光市事件と刑事弁護


コメント欄でも非常に熱い議論が交わされていますので、お時間のある方はそちらもご覧になると良いと思います。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2007年9月15日 (土)

光市母子殺害事件関連のブログ

8月9日に 「週刊ポスト」に敬意を表す という記事を書きました。この時に取り上げた週刊ポストの記事は、光市母子殺害事件の被告人を精神鑑定した精神科の医師のインタビューです。
私もこの記事を読むまでは事件についてテレビ報道以上のことは知りませんでしたので、弁護団に対する不信感があり、この事件の報道は見たくもないという気がしていました。

しかしこの記事を読んだ後、私が思ったのは、今までの自分はこの事件について、ほとんど何も知らなかったということです。これまでの裁判の流れ、被告がどんな人間か、弁護団の主張などほどんど知りませんでした。
そして、それは他の多くの方々も同じなのではないかと思い、ブログで記事を取り上げたわけです。

私がブログで紹介したところで大したことはないのですが、思いがけず kojitakenの日記 と 村野瀬玲奈の秘書課広報室 で取り上げていただき、おかげさまでこの日の記事には今でも毎日、数多くのアクセスがあります。

その後、この事件をめぐっては、橋下徹弁護士がテレビで弁護団に対しての懲戒請求を呼びかけた結果、4000件以上もの懲戒請求があったこと、それに対して、逆に弁護団の一部から橋下弁護士が訴えられたことなどが話題になりました。
こちらはテレビなどでも流される情報ですが、ネットにはそれ以上に知っておくべき大切な情報がたくさんあります。


この事件に関して、マスコミでは流されない情報を得られるブログを紹介します。

必読なのが 言ノ葉工房 です。
大変良くまとめられていて、関連ブログが多数紹介されています。

以下は、弁護士のブログです。今枝弁護士は実際に懲戒請求されました。
弁護士・人間・今枝仁 
弁護士のため息 
津久井進の弁護士ノート 
情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士


橋下弁護士は、世間の誤解を解くためには弁護士に説明責任があると主張しています。しかし、本来それはマスコミの役割であり、弁護士の業務ではないはずです。
それでも、この事件の弁護団は結構説明しているようです。
ただ、マスコミがその情報を流さない以上、情報は自分で探す必要があります。そのために以上のブログは大変有用であると思います。

人気blogランキングへにほんブログ村 政治ブログ 政治・社会問題へ
最後までお読みいただきありがとうございます。
よろしければ、1つか2つ、クリックお願いします。

| | コメント (9) | トラックバック (6)

2007年8月 9日 (木)

「週刊ポスト」に敬意を表す

今マスコミでバッシングされている人と言えば、安倍首相と横綱の朝青龍でしょうか。安倍首相はともかく、個人的には朝青龍はちょっとかわいそうな気もします。ほとんどすべてのマスコミが敵のようですから。一度こういう状況になると大変だろうと思います。

その朝青龍以上に非難されているのが、光市母子殺害事件の21人の弁護団ではないでしょうか。同じ弁護士の中にも痛烈に批判している人もいます。
私もこの事件に関してはテレビ報道以上のことは知らなかったので、同じように弁護団に対して悪いイメージしかありませんでした。

この事件は被害者の遺族がテレビで発言することも多く、他の事件よりも情報量は多いはずです。にもかかわらず、私は、なぜかこの事件の加害者については良く知りませんでした。

現在発Weeklypost_2売中の「週刊ポスト」(8.17/24合併号)にこの事件に関する記事が載っています。
内容は、弁護側に依頼されて被告の精神鑑定をした精神科医のインタビューです。
この記事を読んで初めて被告がどんな人間か、弁護団が何を主張したいのかが分かりました。

この事件の裁判の流れを見てみると、弁護側は一審、二審と起訴事実を争いませんでした。判決は無期懲役です。
そして検察側が死刑を求刑して上告した結果、最高裁は審理を高裁に差し戻します。当然、差し戻し審では死刑判決の可能性が濃厚です。
そこで弁護人が代わり、弁護方針も変わりました。そのため、一審二審で認めていたことを否定することになり、マスコミから弁護団がバッシングされることになります。死刑回避のための法廷戦略だ、というわけです。

マスコミ報道ではこのようになりますが、「週刊ポスト」の記事を読んだ印象では、一審二審での弁護の方に問題があったように思えます。差し戻し審で初めて普通の弁護活動がされている感じがします。

以下、記事を参考に弁護団が精神鑑定を求める件を少し。

(差し戻し審で)弁護士が精神鑑定を依頼しています。その理由は、被告と接見した際、被告の述べることが理解できず、あまりの幼さに驚いた。その上、家庭裁判所の調査官による「少年記録」には、「被告のI Qは正常範囲だが、精神年齢は4、5歳」と書かれていた。また、生後1年前後で頭部を強く打つなどして、脳に器質的な脆弱性が存在する疑いについて言及していました。
さらに、広島拘置所では、被告に統合失調症の治療に使う向精神薬を長期多量に服用させていました。これに当惑した弁護団が精神鑑定を求め、裁判所が認めたということです。

そして、精神鑑定の結果、「被告は事件当時、精神病ではなかった。しかし、精神的発達は極めて遅れており、母親の自殺時点で留まっているところがある」という結論になりました。


全体で6ページに亘る長い記事ですので、以下簡単にまとめますと、被告は家庭内暴力の被害者だったこと、母親と母子相姦的な関係にあったこと、その母親が被告が小学生の時に自殺したこと、その後の被告の精神的発達が止まっていることなどが明らかにされています。

なぜ弁護団が精神鑑定を要求したのか、被告人の生い立ちや精神状態はどのようなものなのか、などは他のマスコミでは目にしなかったように思います。
その点この「週刊ポスト」の記事は、冷静に本来のマスコミが担うべき役割を果たした良い記事です。

被告を死刑にするかどうかは裁判所の判断です。
その前に真実が明らかになる必要があります。
そして解明された事実を正しく伝えることがマスコミの役割であるはずです。
今はどのメディアも、犯人憎しの報道で同じ方向を向いていて、事実を追う媒体は全くありません。

この時期にこのようなインタビューを掲載した「週刊ポスト」に敬意を表します。
また、この事件に興味のある方でまだお読みでない方には、ぜひ読んでいただきたいお薦めの記事です。

人気blogランキングへ
よろしければクリックお願いします。

| | コメント (9) | トラックバック (11)