精神鑑定の問題点
オウム事件や光市事件などでもそうなのですが、日本の裁判は長すぎるとよくいわれます。理由はいろいろあるのでしょうが、その中の一つが精神鑑定だと思います。
精神鑑定は被告人の責任能力を判断する上で大切なことは分かりますが、どこまで信頼できるものなのでしょうか。
10月9日に名古屋地裁で、ある事件に対し懲役30年が求刑されました。
この求刑にも精神鑑定が影響を与えています。
愛知県安城市の大型ショッピングセンターで05年、男児(当時11カ月)が刺殺され、女児らがけがを負わされるなどした事件で、殺人や傷害などの罪に問われた住所不定で無職の氏家克直被告(37)の公判が9日、名古屋地裁であり、検察側は有期懲役刑では最も長い懲役30年を求刑した。
論告では「殺人の故意は明らか。まれにみる残虐な通り魔殺傷事件だ」と指摘しながらも、「犯行当時は心神耗弱だったと認めざるを得ない。無期懲役が相当だが、法律上の減刑事由にあたり、考慮せざるを得ない」と求刑理由を述べた。
犯行時の被告の精神状態は、完全責任能力があったと認める検察側の鑑定に対し、地裁の鑑定では心神耗弱、弁護側の2件の鑑定では心神喪失と結果が分かれた。弁護側は心神喪失による無罪を主張している。
検察側は、弁護側の2件の鑑定について「わずか3回の面接と、面接せずに書かれたもの」などと批判。一方、裁判所の鑑定をめぐっては「十分信頼に値する」と評価しつつ、殺人前後に行われた窃盗と傷害の両罪の完全責任能力を認めた点について「わずか3分間で差異を設ける理由は見いだし難い」と、すべての犯行で心神耗弱だったとの判断を示した。
[2007年10月9日20時27分 asahi.com]
記事によりますと精神鑑定は4件行われています。弁護側が2件、検察側が1件、地裁が1件です。
結果は、弁護側の鑑定が心神喪失、検察側が完全責任能力あり、といかにも予想通りのものでした。
そして、地裁による鑑定の結果は両者の間を取ったような心神耗弱。
全て最初から結論ありきの精神鑑定のように見えてしまいます。
それらの鑑定を受けて検察側が求刑をしたわけですが、検察側は自分たちの鑑定結果を採用せず、なぜか地裁の結果を採用しました。
それもそのまま採用したのではなく、わざわざ修正して全ての犯行が心神耗弱だったとしています。
検察側が自らの鑑定結果を採用しないことにも呆れますが、地裁の結果を一部では採用しながら他の部分を勝手に変えていることもおかしいです。
それなら専門家による精神鑑定など必要ないでしょう。時間の無駄です。
勝手な想像をしますと、表現は悪いのですが、被告人は「あまり普通ではない」のではないでしょうか。だから何度も精神鑑定をしているし、検察側もさすがに心神耗弱は認めざるを得なかったと考えられます。
弁護側、検察側、裁判所の鑑定結果が全て違っています。
それは精神鑑定が法廷戦術の一つになっていることに大きな原因があると思います。
もちろん鑑定結果が判決に与える影響が大きいので当然とは言えますが、その結果として、精神鑑定そのものに対する信頼性が損なわれてしまいます。
私は以前 死刑の代わりに懲役60年 という記事の中で、精神鑑定は裁判が終わった後にやれば良いと書きました。
もちろんこれは、現状では素人の暴論に過ぎませんが、その方が裁判を迅速に終わらせるためにも、また、精神鑑定の信頼性を高めるためにも貢献すると考えます。
そもそも精神鑑定にしても、法医学鑑定などにしても、同じ人や物に対して弁護側と検察側でまったく異なる結果が出るならば、双方がやる必要はありません。
ひとまず暫定的な判決を出してから、改めて必要であれば精神鑑定やその他の鑑定、情状酌量などをして、その上で判決も調整できるようにする。
裁判もそのくらいの柔軟性があった方が良いように思いますが‥‥。
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コメント
TBありがとうございます。
これからもいろいろなご意見よろしくお願いします。
投稿: 今枝仁 | 2007年10月12日 (金) 08時17分
今枝仁様
こんにちは。
ブログいつも拝読しております。
お忙しい中、コメントありがとうございました。
投稿: もそもそ | 2007年10月13日 (土) 00時56分